DTxとは デジタル技術を用いた新しい治療方法

疾患の治療ために医師からは様々な薬を処方されますが、デジタル技術を用いたソフトウェアを治療のために処方する時代がもうやってきています。多くの場合、スマートフォンなどのモバイル機器のアプリで病気の治療を行うというもので、このような治療方法をデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics 略してDTx)と言います。DTxは、内服薬等と同様、科学的な根拠に基づき臨床的な検証を経た治療方法です。

2020年6月、ニコチン依存症治療アプリ(禁煙治療アプリ)が厚労省によりはじめて薬事承認され、同年中にも保険適用を見込んでいるようです。日本では禁煙治療は2006年から保険適用による治療ができるようになっています。これは12週間で5回の医師の診察と内服薬の処方を入れたプログラムとなっており、保険診療では1年に1度のみこのプログラムを受けられることになっています。


2017年4月に厚生労働省が保険適用による禁煙治療のプログラムについて次のようなアンケートをまとめています。

・プログラムの終了率は平均で34.5%となっており、そのうち成功率は89.1%
・プログラムの平均継続回数の平均は3.3回
・プログラムを受けた患者全員のうち、治療終了9か月後の禁煙継続率は27.3%
・プログラムを受けた回数が多いほど禁煙継続率は高く、5回終了患者で47.2%
この数値のみを見て分かるのは、禁煙治療プログラムを受けても、そもそもそのプログラムを継続できずに断念してしまう。プログラムを終了できたとしても禁煙を継続するのが困難であるということです。


また、上記アンケートでは、「途中の脱落を防ぐために医師が行っている工夫」として次のように報告されています。
・「途中で禁煙できたとしても、最後まで受診するよう働きかける」(65.0%)
・「5回すべて受診するよう、初診時に必要性を説明したり、全ての診察を予約しておく」(50.7%)
・「受診が途絶えた患者には電話をかけて確認するなど、受診を促す」(27.7%)

これらから分かるのは、治療にあたる医師は、患者の禁煙治療のモチベーションを上げるために継続して働きかけるような工夫をしないと、治療は成功しないということです。つまり、内服薬のみでは解決できない心理的な影響も大きいことです。しかし、禁煙治療を受けている患者さんは毎日喫煙の誘惑に耐えることになりますが、医師からの管理・指導は毎日というわけにはいきません。そこで医師から直接ではないにせよ、毎日、アプリにより指導・管理してもらうことで禁煙を成功させるというのが、先に紹介したアプリの目的です。


このアプリは、呼気一酸化炭素濃度を計測する機器と医師・患者のアプリで構成されています。患者が自分自身の気分や、喫煙衝動をアプリに入力すると、その入力に応じたアドバイスが提案されます。例えば、気分を変えるために「部屋の掃除をしましょう」というような提案です。また、呼気一酸化炭素濃度のデータを管理することで医師は診療の補助に、患者は客観的な数値を見て自制、管理ができるようになります。

このように、継続して患者の治療のために管理・指導が必要になるような疾患に対してDTxは向いているといわれ、今後、精神疾患や生活習慣病に対するDTxが登場してくることが期待されています。米国ではDTxの市場は毎年20%以上成長しており、2025年までに90億ドル近くになると見込まれています。

出典)Roland Berger 「Digital Therapeutics 第 3 の治療法」
https://rolandberger.tokyo/rolandberger-asset/uploads/2020/01/Digital-Therapeutics_%E8%AB%8F%E8%A8%AA%E3%83%BB%E5%85%AB%E6%9C%A8.pdf

この記事を読んでいる人の中でも、スマートフォンのアプリを用いて日々の自分自身の物事について記録・管理している方がほとんどではないでしょうか。食事・運動・睡眠などの管理は身体的な健康のために利用されているでしょう。家計簿のアプリではお金の管理、投資アプリでは相場や資産管理、写真が趣味の方は写真を管理していますがこれらの管理の目的の根源は「心理的な健康」なのかもしれません。

とくにスマートフォンは肌身離さず持っているものですから、「自分自身に関わる物事全ての管理」という点では、DTxはもちろんのことですが、身体的な健康、心理的な健康においてその応用力は測り知れないですね。

Telework.AiではDTxだけではなく、様々なアプリケーションを取り上げています。ぜひご覧になってください。